書店を併設した田舎の住まい

地方都市から車で数時間走ったところにあり、遠くには山々がそびえ田畑に囲まれた田舎町。夫が農業を中心に生計を立てながら、妻が本を中心としたお店をする家。地域の人々とゆるく繋がりながら暮らせる住まいとはどんな場所なんだろう。

強い風や降り積もる雪。自然環境に耐えうるシンプルな切妻屋根の家で、1階は小さな本屋と農業の小屋(農機具や野菜の保管場所)としての場所。シャワーやトイレなども併設して使い勝手を良くしたい。外から玄関へ行くことはもちろん、農作業小屋から玄関へ行くこともできる。

2階は生活の場。広めのダイニングやリビングは農業の仕事仲間と一緒に食事をしたりしてもいい。全体的には家の形状と同じようにシンプルなプランだ。

本屋は10坪ほどの小さなスペースに「農」を中心とした本を揃える。農業の実用書のようなものから、科学的なもの、生活的なものまで、今までの農業のかたち、新しい農業の考え方、仕事の仕方、暮らし方・・・刺激になる本を高い感度で仕入れて、農業の一番近いところで農を発信する。

その場所に住む人の感覚を大切にしたい思い、自分の感性を伝えたい思い、住む人も自分自身も知らなかったことを感じたい思いがこもった本のラインナップ。そんな本が棚に並ぶ。

「晴耕雨読」という言葉がある。季節の良い時期の大雨の日。冬の農作業が早く終わった夕方、雪で仕事ができないとき。家でゆっくりと読書をすることをいう言葉。

本屋のスペースには大きなテーブルがあり、図書館のようにその場所で本を読んでも、購入して家でじっくりと読んでもいい。無理のない範囲で日々の仕事に外からの知識を少しだけ足していく感覚。

誰もが自由に出入りをして、行きたいときに行き、帰りたいときに帰る。仕事仲間と偶然出会って熱い討論が始まることもあるかもしれない。

地域の人が興味のあることを中心に人を呼んでイベントも行いたい。SNSを中心に興味を持った人が訪れることで「農」を中心とした人の結節点にも憧れる。コミュニティとか大げさなものではなく、本屋という形にこだわらず、少しだけ人を繋ぐ。

地元の人がふらりと立ち寄れる場所。子どもでも自転車で来てオレンジジュースやカルピスを飲みながら本を読んだり、若い方からおじいちゃんおばあちゃんまで、しゃべり場として行きたくなる場所になったらいいなと思う。

いつもと変わらない雰囲気で、いつもと同じ佇まい。

今、多くの街が整備され、規格化された硬いものに覆われていることで普通の人が手をつけられない場所となり、地域から気持ちが離れつつあるような気がしている。空想の社会性が作り出した形ではなく、人が持つ温かみ、厳しさ、優しさから実直な家ができたらいい。

地方の田畑に囲まれた場所であっても車を利用すれば欲しいものは手に入るし、ネットで購入することも簡単にできる。でも、あそこに行けば知ることができるかも、何か感じることができるかも、誰かに出会うことができるかも・・・そう思える場所があってもいい。ここに来なければ出会えなかったヒトやモノやコトがあるはず。