街角に建つカフェを併設した家

2020年の春。働き方を大きく考えさせられた日々が多かったように思う。1つの企業で働き続けることも、独立して起業することも、公務員として働くことも、大変さは人それぞれだけれど、生きていくことの難しさを実感した。

数ある店の中で、カフェは最たる打撃を受けたものの1つだった。不特定多数の人が出入りし、密度に差はあるけれど空間と場所を共有する営業形態は、非常事態宣言下で店を開けられない状態が日常化し、テイクアウト運営に切り替えざるを得ない状態となった。

そこで感じたのは、カフェで息抜きをしていた自分だった。扉を開けてソファやイスに腰をおろし、美味しいコーヒーとお菓子を食べながら、本や雑誌に目を通す時間。心地よい音楽と共に、マスターとお客さんがやり取りする声、お客さんが出入りする時に聞こえるガチャという音、コーヒーを飲んでカップを下ろすカツンという音。1時間くらいの時間が自分を癒やしてくれていたんだと、今になって思う時間。

同じコーヒーであってもテイクアウトでは満たされない気持ちが、自分自身の奥底からフツフツと感じられた。

カフェはただコーヒーを提供する場所ではないということ。場所や空間の重要性。そんな状況の中でカフェを併設する家を少し考えてみた。

街の角地に建つ小さなカフェ。家の奥行は2間ほどで細長く、1階はカフェとLDKや水回り、2階に寝室や個室を設けている。カフェとしては、2台分の駐車場と10畳ほどの小さなカフェスペースにカウンターと2掛けのテーブル席が1つ。

丁寧に入れられたコーヒーとハンドメイドで作られたお菓子を楽しむ場所。それと同時に、地域の住民や近隣の友だちがフラッと訪れて、マスターと少し話をするようなバーのような要素があってもいい。自宅で育てている野菜を差し入れに持ってきてくれたことがきっかけで新しいメニューが生まれたり、常連のお客さんが撮る写真展を開いたり、その写真展を見た本好きのお客さんが1日限定で古本市を開いたり。

数珠をつなぐように出会った人をきっかけに、さらに繋がっていくような場所。

カフェの営業も無理のない範囲でしたい。この家にはカフェの調理場以外にキッチンはない。調理場はカフェの調理場であり、家族のキッチンとしての役割を果たす。

カフェの為だけの空間や機材は、営業をしていない時間は無駄になってしまう。緊急事態宣言等で自分の力だけではどうすることもできない出来事が起こってしまった場合、カフェの空間は利益を生む場所から経費だけがかかる場所となる。

カフェ営業のリスクを少しでも減らすべく、家族の日常的な生活の場の一部としても利用できるようにしたい。カフェとしての利用に限定しない曖昧な空間は、フレンドリーでどこか家庭的な優しい空間になるような気がしている。

万が一にもカフェの営業を終えた時、調理場は完全な家族のキッチンとなり、客席は家族のダイニング空間として利用できるように心がけたつもりだ。