アトリエと小さなギャラリーを併設した住まい

アートとは何か。明確な答えは持ち合わせていないけれど、社会への問題提起であり、アートを見た人が問題を理解し、共感や涙、怒りなど、心や感情を揺さぶられ、自分自身で思考するためのきっかけを与えてくれるものと考えている。

何かをつくり表現する人が動く場所であるアトリエ。住まいとは別に離れた場所にアトリエを構える人、住まいの隣に建物を建ててアトリエにする人、住まいと一緒の建物の中にアトリエを構える人。アートとの距離は作り手によりさまざまで、日常と少し距離を取りたい人もいれば、日常こそがアートと考える人もいると思っている。

アトリエと小さなギャラリーを併設した住まいは、1つの建物の中に住まいとアトリエに加えて、作品を公開するための私的なギャラリーを納めた建物となる。道路から玄関を入ってすぐのところにある部屋がギャラリー兼ダイニングの空間。

ギャラリー兼ダイニングは、日常的には作り手のダイニング空間であり、必要な時にギャラリーとしても活用できるような使い方を想定していて、ギャラリーには不特定多数の人がたくさん押しよせるというよりは、作り手の仲間や仕事上のつながりの人、友人知人、さらにその友人など、顔が分かる範囲でアートを公開し、最後に立食パーティーをするような使い方をイメージしている。

ギャラリーを抜けるとキッチンとトイレ。キッチンはギャラリーに来た人にコーヒーやお菓子を出せるようにギャラリーの近くに計画し、トイレはギャラリーを使用する人も住まい手も利用する場所。トイレの横にはアトリエで使用する物を収納しておく倉庫がある。

キッチンとトイレを抜けるとアトリエがある。2階の床がない吹抜空間で、天窓から自然光が入ってくる明るい空間。作り手がアートに集中できるように道路から離れた場所にアトリエを計画し、好きな音楽を部屋全体に反響させながら流し、アートに取り組むのもいい。アトリエを抜けて外に出ると小さな庭と木があり、息抜きをする場所として利用できないかと考えている。

1階は主にパブリックなスペースで作り手だけではなく、他人が入ってもよい空間と捉えているが、2階は作り手だけのプライベートスペースだ。

階段を上がりきった踊り場のスペースは用途を限定しない間のような空間。アトリエを2階から眺められる場所であり、制作中のアートをアートと向き合っている自分ではない、リラックスをした自分が何気なく2階からアートを眺めてみると、新たな発見があるのかもしれないと考えている。その横には洗面脱衣室や浴室など水回りスペース、奧には個室空間となる。

間口が狭く奥行の長い土地は、地方都市の街中の土地をイメージしたもの。決して広いスペースではなく空間に余裕はないけれど、近隣で仕事をしている飲食店や物販店の店主など、密なつながりの中で持ちつ持たれつ生きていくアートの作り手を想像してみた。