ROOF ISSUE02

本のある家

「本」という形が家の中から存在感を消しつつある。タブレット端末1つあれば数万冊の本が手の中に収まり、インターネットさえ繋がっていれば、多くの情報を目にすることができる現在。紙に文字や絵が書かれた「形としての本」の意味を考えたい。

本との出会いは一期一会。表紙の絵にそっと引き込まれて手に取った本が気持ちいいほど柔らかい手触りで、文章に目を通さなくても本が伝えたいことが身体の中にスッと入ってくることがある。形としての本の魅力。

読み進めるのに苦しい文章に目を通すことは修行のように苦しい。同じ日本語とは思えない、同じ言葉とは思えない固い何かが、頭の中でガタガタと音を出してぶつかる。次のページをめくるべきか、いっそのこと本を閉じてしまおうか。数年後に読み返したら、素直に読めるようになっているのではないか?と逃げ出したくなって悩むこともある。

本との距離の取り方は人それぞれ。誰も強制はしない。自分の人生を何も言わずに肯定してくれる本があり、自分の心や感情を揺さぶってくる本もある。そんな数々の本が並んだ本棚は人生の縮図と言えるかもしれない。

読むことなく何十年と置かれた本であったとしても、ポンッと棚の上に置くだけで人の気持ちを落ち着かせ、守り神のような存在になっていることもある。

本が住まいの中に存在していること。人の感情や行動が変わり、他人から見た人の人生が可視化されていく。

ISSUE02では「本のある家」の思考を深めたくてペンを走らせることにしました。


「本のある家」としてイメージしたのは、「長期滞在ができる図書室のある住宅」、「本を読む場所のある終の住処」、「書店を併設した田舎の住まい」の3つ。

EDITOR / DESIGN / PHOTO

編集&発行
古池弘幸建築設計事務所

執筆&写真
古池弘幸